大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和57年(ワ)988号 判決 1984年6月28日

原告

井之口祐子

被告

久田賢一

ほか二名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金三九七九万三八七二円及び内金三七七九万三八七二円に対する昭和五六年五月一九日から、内金二〇〇万円に対する昭和五九年五月一八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その九を被告らの負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し連帯して金四二六〇万二一九八円及び内金三八七二万九二七二円に対する昭和五六年五月一九日から、内金三八七万二九二六円に対する昭和五九年五月一八日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 昭和五六年五月一九日午前三時五七分ころ

(二) 発生場所 京都市東山区三条大橋東入橋詰大橋町八四番地先市道三条通南側歩道上

(三) 加害車両 被告久田所有、同李運転の普通乗用自動車 (京五六も四九四七)

(四) 態様 原告が右道路南側歩道上を歩行中、右道路を東進してきた加害車両が反対車線を横切つて右歩道に突つ込み約一五メートル歩道上を暴走して原告に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告久田は加害車両の所有者であり、運行供用者として自賠法三条にもとづき原告に対し損害賠償責任がある。

もつとも、被告久田は、本件事故当時、懇意にしていた被告正木の仕事などの必要上、短期的に貸与していたのであるが、必要に応じて自らもその都度、使用していたのであるから、なお客観的に連行支配及び運行利益を有していたことに変りはない。

(二) 被告正木は本件加害車両の借主として同車両の使用権限を有していたものであり、運行供用者として自賠法三条にもとづき原告に対し損害賠償責任がある。その根拠は、次のとおりである。

被告正木は、昭和五六年四月中旬ころ、その所有自動車が故障したため、食堂経営などの必要上、たまたま自動車二台を所有していた友人の被告久田より無償で借り受けていたところ、本件事故が惹起したものである。

被告正木は、加害車両を自ら度々運転していたし、自分の賃借していたガレージで、鍵も他のそれと共にズボンのポケツトに入れて管理していた。ただ、本件事故が惹起した当時、右管理状況を熟知していた被告正木の長男康宏が、一時的に短時間運転する意図で加害車両を持ち出したものである。康宏は、これまでにも無免許運転を繰り返し、補導されたことも再三であり、被告正木もこのことを十分知つていた。それに、加害車両の鍵の保管方法が安易であつたうえ、康宏は、被告正木のズボンのポケツトから鍵を抜き出す際、母親(被告正木の妻)に当該鍵を出すように頼み、母親もこれを了解している。以上の事情に徴すると、被告正木の加害車両に対する一般的な運行支配、運行利益は排除されていない。なお、本件事故当時、被告李が友人である康宏の承諾を得て加害車両を運転しているけれども、これによつて被告正木の運行供用者性に何らの消長を及ぼすものではない。

(三) 被告李は自動車を運転するにあたり、制限速度を遵守し、ハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ道路、交通等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない注意義務があるのにこれを怠たり、無免許運転のうえ制限速度を超過してハンドル操作を誤まり反対車線を横切つて歩道に突つこみ歩道上を暴走した過失により本件事故を惹起せしめたものであり、民法七〇九条にもとづき原告に対し損害賠償責任がある。

3  受傷の内容、程度及び後遺障害

(一) 受傷の内容、程度

原告は本件事故により脳挫傷、頭蓋骨開放骨折、右橈骨・骨盤及び左大腿骨各骨折、右前頭部・頂頭部及び右足部各挫創の傷害を負い、事故当日の昭和五六年五月一九日から同年六月二六日まで京都市内の大和病院に、次いで同月二七日から同年五八年一〇月二六日まで高山市高山赤十字病院に各入院し治療を受けた。

(二) 後遺障害

原告の右傷害は昭和五八年三月三一日症状固定に達したが、原告には次のとおり後遺障害が残存している。

(1) 自覚症状

左上下肢麻痺(痙性麻痺)、歩行障害

(2) 他覚症状及び検査結果

(イ) 左不全片麻痺、左側腱反射亢進

(ロ) CTスキヤン検査によると、右大脳運動領を中心に広範囲な低吸収域を認める。

(ハ) 脳波検査によると、徐波左右非対称性脳波を認める。

(3) 予後の所見

脳挫傷による左不全片麻痺は機能回復の見込みなし。

(4) 後遺障害

頭蓋骨開放骨折、脳挫傷、骨盤骨折等により神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(自賠法施行令二条別表中第五級二号に該当)及び骨盤骨に著しい変形を残すもの(同表中第一二級五号に該当)であり、同令二条二号二により併合四級相当の後遺障害である。

4  損害

(一) 治療費 金一八二万八六六七円

但し、前記大和病院での昭和五六年五月一九日から同年六月二六日までの治療費のうち、健康保険による本人負担分金七三万五四四五円及び前記高山赤十字病院での同月二七日から同五八年二月二八日までの治療費のうち同じく本人負担分金一〇九万三二二二円の合計額。

(二) 入院看護費 金五〇万四〇〇〇円

但し、事故当時から昭和五七年三月二〇日までのうち、原告の父卓義二二日間、母たよ一三二日間、兄貢久八日間、叔母脇田さよ子六日間の合計一六八日間を一日三〇〇〇円として計算。

(三) 入院諸雑費 金五二万八〇〇円

但し、事故日から昭和五八年八月二八日までの六五一日間を一日八〇〇円として計算。

(四) 器具購入費 金五万四五〇〇円

但し、手、足の指の装具の器具費のうち健康保険による本人負担分。

(五) 交通費 金二八万九九八〇円

但し、原告の実家である古川町と京都間の原告の両親等の数回にわたる交通費。

(六) 転居費用 金四万円

但し、原告が下宿していた京都市東山区白川筋下る二筋目西入堤町前川方から原告実家まで転居するのに要した費用。

(七) 文書料 金三〇〇〇円

大和病院の診断書費用。

(八) 逸失利益 金三五二八万二九二五円

原告は、本件事故当時健康で前途有望な短大二年生であり、症状固定時は二一歳であつたから、年齢別平均給与月額一三万五八〇〇円、後遺障害併合四級による労働能力喪失率九二パーセント、労働能力喪失期間は機能回復の見込みはないから四六年、新ホフマン係数二三・五三四として計算。

(算式 135.800×12×0.92×23.534=35.282.925)

(九) 傷害慰藉料 金二九五万五四〇〇円

原告が本件事故当日から昭和五八年二月二八日まで二二ケ月間にわたつて入院したことによる慰藉料は右金額を下らない。

(一〇) 後遺障害慰藉料 金一〇九八万円

原告は夢多き女子大生であつたが、本件事故による後遺障害のため将来の仕事と生計の途を閉ざされ、夢見る楽しい家庭生活を築くことも絶望状態であつて、現在はもとより今後被る精神的苦痛は筆舌に尽し難いのであり、慰藉料は右金額を下らない。

(一一) 既受領分

原告は昭和五九年一月二〇日、自賠責保険から本件事故に関する後遺障害慰藉料として金一三七三万円を受領した。

(一二) 弁護士費用 金三八七万二九二六円

被告らは原告の請求に応じないため、原告は原告代理人に対し訴訟提起を委任し、謝金及び手数料として右金額を支払うことを約した。

(一三) 請求金額

原告が被告らに請求しうべき金額は、右(一)ないし(一〇)及び(一二)の損害合計金額から(一一)の既受領分を差し引いた金四二六〇万二一九八円となる。

5  よつて、原告は被告らに対し、連帯して金四二六〇万二一九八円及び内金三八七二万九二七二円に対する本件不法行為の日である昭和五六年五月一九日から、内金三八七万二九二六円に対する本件口頭弁論終結の日の翌日である昭和五九年五月一八日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告久田賢一

(一) 請求原因1の事実のうち、事故の態様を否認し、その余は認める。

(二) 同2(一)のうち、本件加害車両が被告久田所有であることは認め、運行供用者であることは否認し、その余の主張は争そう。

(三) 同3、4の事実は4の(二)を除き総て不知。同4の(二)の事実は認める。

(四) 同5は争う。

2  被告正木繁夫

(一) 請求原因1の事実のうち、事故の態様を否認し、その余は認める。

(二) 同2(二)のうち、被告正木が本件加害車両の借主として使用権限があり運行供用者であつたことは否認し、その余の主張は争う。

(三) 同3・4の事実は4の(二)を除き総て不知。同4の(二)の事実は認める。

(四) 同5は争う。

3  被告李哲也

請求原因事実はすべて認める。

三  被告の主張

1  被告久田

被告久田は、本件加害車両を被告正木の承諾を得て同人のガレージに一時置かせてもらつていた。加害車両の鍵は同ガレージ内の他の車両との関係で同車両を移動する必要上、被告久田が被告正木に預けていたにすぎず、被告久田が被告正木らに同車両の運転を許したことはない。被告正木は一度だけ同車両を運転したことがあるが、それは同久田に無断でしたものである。そして被告正木が右鍵を他の鍵と一緒に自己のズボンのポケツトに入れて睡眠していたところ、同被告の知らない間にその子康宏が鍵を持ち出して加害車両を運転し、さらに被告李が康宏から半強制的に同車両を借り運転し本件事故を惹起せしめたのである。従つて、同被告にとつて全く予想外のことで、本件事故当時、本件加害車両に運行支配、運行利益を有していなかつたのであるから、運行供用者としての責任はない。

2  被告正木

前項のとおり被告正木は本件加害車両の借主ではなく、もとより使用権限を有していたものでもない。また、前項の加害車両が運転された経過からしても、同被告にとつて全く予想外のことで、同車両の運行支配、運行利益を有しておらず、運行供用者としての責任はない。

第三証拠〔略〕

理由

第一被告久田及び同正木の関係

一  交通事故の発生

請求原因1の事実(本件交通事故の発生。但し、同1(四)の事故の態様は除く。)は原告と被告久田、同正木との間で争いはないところ、成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、同第九、一〇号証、同第一二ないし第一七号証によれば、同1(四)の事実(事故の態様)を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  責任原因

1  被告久田の責任

前掲甲第五号証の一ないし三、同第一二ないし第一四号証、成立に争いのない甲第三号証、同第一一号証(但し、後記措信しない部分を除く)、同第二三号証(但し、後記措信しない部分を除く)及び証人正木康宏の証言、被告久田、同正木(但し、後記措信しない部分を除く)、同李各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

加害車両は被告久田の所有であつたこと、被告久田は、昭和五六年四月中旬頃から被告正木が賃借しているガレージに加害車両を置かせてもらつていたこと、被告久田は、右ガレージの他の車との関係で本件加害車両を移動する必要上、同月下旬頃から同車両の鍵を被告正木に預け、車の移動を頼んでいたこと、被告正木は同年五月一八日に、被告久田の承諾を得て自己の交通の便宜のため本件加害車両を運転したこと、被告正木は同日午後一一時頃、本件加害車両の鍵を自己のズボンのポケツトに入れ、右ズボンをベツトの脇に置き就寝したこと、被告正木の長男康宏は翌一九日午前二時頃、同正木に無断で右ズボンのポケツトから本件加害車両の鍵を持ち出し、同車両を運転して友人被告李を誘いドライブに出かけたこと、被告久田、同正木は康宏、被告李に本件加害車両の運転を許したことはないこと、康宏は自動車運転免許証を有していなかつたが、過失に三回ほど無免許運転で検挙されたことがあること、被告正木はそのことを知つていたこと、被告李も自動車運転免許証を有していなかつたが、康宏とドライブに出かけた後、同人に対し運転を交替するよう強く要求し、康宏はしぶしぶ交替したこと、康宏、李ともに同日朝までには本件加害車両を返還するつもりであつたこと、被告李が本件加害車両を運転中本件事故を惹起せしめたこと。

以上の事実が認められ、前掲甲第一一号証、同第二三号証及び被告久田、同正木各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしにわかに措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

ところで、被告久田は本件事故当時、本件加害車両の所有者であつたのだから、特段の事情のない限り運行供用者として責任を負わねばならない。

そこで特段の事情の存否について判断するに、前掲各証拠及び前記認定の事実からすると、被告久田は単に被告正木の賃借しているガレージに本件加害車両を置かせてもらつただけでなく、被告正木に同車両の鍵を預け、同車両の管理を依頼していること、被告久田が被告正木に本件加害車両の鍵を預けたことにより被告李の運転が可能になつたこと、被告正木は必要があれば本件加害車両を運転するつもりであり、被告久田もそれを認容していたこと、無断運転をしたのは被告正木の長男康宏及びその友人被告李であり、被告正木と人的関係があつたこと、被告正木は康宏の過去の経歴から同人が無断運転することは予測できたこと、被告李は康宏に運転の交替を強く要求したとしても、康宏の自由意思は奪われていなかつたこと、康宏、被告李ともに数時間運転後は本件加害車両を返還するつもりであつたことが認められるのであり、本件事故当時、被告久田の本件加害車両に対する運行支配は失なわれていなかつたとするのが相当である。

2  被告正木の責任

前記認定したとおり、被告正木は本件加害車両を単に被告久田のために保管していただけではなく、必要があれば自己のために使用することが可能であつたものと認められ、また、現に本件加害車両を自己のために運転していたのであるから、運行供用者であると言わねばならず、また、前記認定の本件加害車両の無断運転の経過から、本件事故当時、被告正木の運行支配は失なわれていなかつたとするのが相当である。

3  以上から、被告久田及び同正木は本件事故によつて原告に生じた損害を賠償しなければならない。

三  原告の受傷の内容、程度及び後遺障害

成立に争いのない甲第四号証、原告本人尋問の結果(第一、二回)により真正に成立したものと認められる甲第六号証の一、二、同第七号証の一ないし三四、同第二一号証の一ないし五、同第二二号証、同第二四ないし第二七号証及び原告本人尋問の結果(第一、二回)並びに弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は本件事故により脳挫傷、頭蓋骨開放骨折、右橈骨・骨盤・右大腿骨各骨折、左前頭部・頂頭部・右足部各挫創の傷害を負い、昭和五六年五月一九日から同年六月二六日まで京都市東山区大和病院に、同二六日から高山市高山赤十字病院にそれぞれ入院し治療を受けた。右傷害は高山赤十字病院に入院中の昭和五八年三月三一日症状固定し、原告には請求原因3(二)記載の後遺障害が残つた。

四  損害

1  治療費

前掲甲第六号証の一、二、同第七号証の一ないし三四、同第二一号証の一ないし五、同第二二号証及び原告本人尋問(第一回)の結果を総合すると、原告は本件事故による受傷のため入院治療費として前記大和病院に金七三万五四四五円(昭和五六年五月一九日から同年六月二六日までの入院治療費)、前記高山赤十字病院に金一〇九万三二二二円(昭和五六年六月二六日から同五八年二月二八日までの入院治療費)、合計金一八二万八六六七円を支払つたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  入院看護費

原告本人尋問(第一回)の結果により真正に成立したものと認められる甲第二四号証及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の前記入院治療中、原告主張のとおりその父母等親族が延べ一六八日間付添つた事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして右親族らの入院付添費は、一日当り金三〇〇〇円とするのが相当であるから、原告は入院付添費として合計金五〇万四〇〇〇円の損害を蒙つたことが認められる。

3  入院雑費

原告が本件事故による受傷のため昭和五六年五月一九日から同五八年二月二八日まで(合計六五一日間)入院していたことは前認定のとおりであり、その間入院雑費として一日八〇〇円の支出があつたとするのが相当であるから、原告は入院雑費として合計金五二万八〇〇円の損害を蒙つたことが認められる。

4  器具購入費

前掲甲第二四号証及び原告本人尋問(第一回)の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告が本件事故による受傷のため手、足の装具を必要としたこと、そして右装具の購入費として原告は金五万四五〇〇円を支払つたものと認定され、この認定を左右するに足りる証拠はない。

5  交通費

前掲甲第二四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告の父、母、兄が原告の付添看護等のため、岐阜県の実家と京都間を往来する必要があつたこと、その交通費として金二八万九九八〇円を必要としたことが認められ、この認定を左右する証拠はない。

6  転居費用

前掲甲第二四号証及び原告本人尋問(第一回)の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は本件事故当時短大二年生であつたが、本件事故のため短大を休学し、京都市内の下宿から岐阜県の実家へ転居することを余儀なくされたこと、その転居費用として金四万円必要としたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

7  文書料

原告本人尋問(第一回)の結果及び同結果により真正に成立したものと認められる甲第六号証の三によれば、原告は前記大和病院へ文書料として金三〇〇〇円を支払つた事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

8  逸失利益

原告が本件事故により請求原因3(二)記載の後遺障害を負つたことは前記認定のとおりであり、前掲甲第五号証の一ないし三、同第二四号証、成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果(第一、二回)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は昭和三六年九月一九日生まれであり、本件事故当時は一九歳の健康な短大二年生であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実関係を前提にして原告の後遺障害による逸失利益の額を検討すると、原告は本件事故に遭わなければ、二一歳から六七歳まで四六年間、就職しあるいは家庭の主婦として家事労働に従事し、その間毎年一六二万九六〇〇円(原告が主張する年齢別平均給与年額)を下らない収入を得ることができたと認められるところ、前記認定の後遺障害の程度によれば、原告は右後遺障害のため生涯にわたつてその労働能力の九二パーセントを喪失したものと認められるから、原告の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、金三五二八万二九二五円となる。

9  慰藉料

前記認定の傷害の部位程度、入院期間、後遺症の内容程度その他本件に顕れた諸般の事情を勘案すると、本件事故により原告が受けた精神的苦痛に対する慰藉料は金一三〇〇万円が相当である。

10  損害の填補

原告が本件事故に関し自賠責保険から金一三七三万円を受領したことについては、原告と被告久田及び同正木の間で争いはない。

11  弁護士費用

原告本人尋問(第二回)の結果によれば、原告は本件損害賠償請求事件解決のため、原告訴訟代理人らに本件訴訟の提起追行を委任し、報酬として請求額の一〇パーセント相当の金三八七万二九二六円の支払を約したことが認められるところ、そのうち本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は金二〇〇万円と認められる。

12  請求金額

以上によれば、原告が被告らに請求しうべき金額は右1ないし9及び11の合計金額から10の金額を差し引いた三九七九万三八七二円となる。

第二被告李の関係

原告と被告李との間では、請求原因事実に争いがないから、同被告は、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任があるところ、原告が被つた損害は、第一の項で説示したとおり、慰藉料額を一三〇〇万円、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用を二〇〇万円と定めるほか、原告主張どおりであるから、その合計額から損害の填補額を差引くと、三九七九万三八七二円となる。

第三結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告らに対し、連帯して金三九七九万三八七二円及びこのうち弁護士費用を除く金三七七九万三八七二円に対する本件不法行為の日である昭和五六年五月一九日から、弁護士費用金二〇〇万円に対する本件不法行為の後で本件口頭弁論終結の日の翌日であること記録上明らかな昭和五九年五月一八日から、各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田眞)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例